一年間、同じ本を読む読書会
「一年間、同じ本をじっくりと読んでみませんか?」
そんな、少しゆっくりとした時間を過ごす読書会を始めます。
名前は「一年読書」。
今回読む本は、水上文さんの『たったひとり、私だけの部屋で』(河出書房新社)です。
一度読んで終わりではなく、何度も読み返しながら、そのとき感じたことや、心に引っかかった言葉を持ち寄ります。
全部理解できなくても大丈夫です。
読み切れていなくても、その時点で感じたことから話してみたいと思います。
本について、ゆっくり話せる時間を一緒につくれたらと思います。

なぜ、この本なのか?
私が初めてこの書籍を知ったのは、独立書店ネットワークのメーリングリストでした。
そのメーリングリストには、出版社さんから「こんな本が出ます」「こんなフェアをしませんか?」という案内がよく届きます。
その一つに、河出書房新社さんから、水上さんの書籍の紹介と、水上さんが選書されたブックフェアの書籍一覧が届きました。
私は本屋をしているので、読んだことはなくても、新刊の入荷情報や古本の買い取り、出版社さんからのお知らせなどを通して、比較的多くの本の名前に触れる機会がある方だと思います。
そんな私ですが、水上さんが紹介するブックガイドを見たとき、ありきたりな表現ですが、本当に知らない本ばかりで、また、紹介されている本がどれも魅力的で、すごく新鮮な思いがしました。
同時に、それは裏を返せば、これまで私自身がフェミニズムやクィア、性的マイノリティの人たちが置かれている状況や、その人たちの言葉に、十分に目を向けてこなかったことの表れなのではないかとも感じました。
そのときに、ブックフェアを行うだけでなく、水上さんの本が出版されたら、ぜひコギトで何かイベントができないだろうかと考えるようになりました。
その後、河出書房新社の営業や編集者の方々、GOAT meetsのイベントでご一緒した書店の方などに相談を重ねました。
私の一方的な思いや相談にもかかわらず、皆さま本当に丁寧に対応してくださり、感謝しかありません。(本当はお名前を出して感謝したいくらいなのですが、先方の許可をいただいていないので、今回は控えておきます。)
私の中には水上さんをお招きしたオンラインイベントや、遠方の本屋さんとの合同読書会など、いろいろなアイデアがありました。
しかし、最終的には連れ合いと相談し、「まずはコギトで、一年間かけてじっくりと水上さんの本を読んでみよう」ということになりました。
性的マイノリティを知るということ
この書籍には、水上さんご自身のパーソナルな経験や思いとともに、本当にさまざまな書籍を通しての評論が収められています。
だからこそ、この一冊だけを読むのではなく、本の中で紹介されている関連書籍にも手を伸ばしながら、一年間かけてじっくりと読み深めていけたらと思っています。
そして一年後には、性的マイノリティである「その人」を知るだけでなく、性的マジョリティである自分自身のこと、さらには、自分の中にもある様々な「マジョリティ性」や「マイノリティ性」についても、考えられるようになっていたい。
その気づきを、この社会の中で、自分はどう生きていくのか、他者とどう関わっていくのかという問いにつなげていけたらと思っています。
私は、性的マイノリティをはじめ、さまざまなマイノリティについて知ろうとすることは、この社会に生きる私たちの責務でもあると感じています。
もちろん、誰かのことをすべて理解したり、その経験や思いを完全に分かち合ったりすることはできないかもしれません。
そもそも、誰かを「理解した」と簡単に言い切ってしまうことにも、私は慎重でありたいと思っています。
それでも、私たちは同じ社会の中で生きています。
立場も、経験も、価値観も異なる人たちが、同じ社会という大きな船に乗り合わせている。その中で、どうすれば互いを尊重しながら、共に生きていくことができるのか。
そのための知恵を絞り、考え続けること。
それこそが、私自身がこの社会で生きている意味の一つなのではないかとも感じています。そして、それが私が本屋をしている意味かもしれません。
一年という時間をかけて、一冊の本から、そんなことを皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
本を読むことは、他者を知ること
最後に、水上さんの書籍の「はじめに」から、特に心に残った一節をご紹介します。
思えば私はずっと、ひとりで本ばかり読んでいた。
周囲に馴染めない、うまくやれない、と卑屈になって、人との関わりを避けることがままあった。ひとり部屋に閉じこもり、好きな小説を読むことは、格好の逃げ道だった。
けれども小説を読むことは、実のところ「他者」を知ることでもある。
自分とは異なる経験を、世界の見え方を知り、「私」自身が揺さぶられる――本当の意味で「読む」とは、そういうことであるはずなのだ。
だから私は今、語りかけたいと思っている。
なにかを考え、形にし、他のひとに語りかける術を学び、より遠くに行けるような、そんな風になりたいと思っている。たとえば同じような問題を考えたり、あるいはまったく別の価値観を持っていたり、そういう色々な人が自分について語る言葉を得る助けになるような、できれば一緒に言葉を紡ぎ出すような、そうして別の景色が見えてくるような、そんなことがあれば良いのに、と思っている。
この本はそのための一歩である。ほかならないあなたに届くことを、私は祈っている。
『たったひとり、私だけの部屋で』 水上 文 河出書房新社 (p7 「はじめに」より)
私は、この言葉を読むたびに、水上さんから勇気をもらい、背中を押してもらっている気がします。本を読むことは、ひとりでもできることです。けれども、その本を通して、自分とは違う経験や、世界の見え方に出会うことができる。
そして、同じ本を読んだ誰かと語り合うことで、さらに別の世界が見えてくるかもしれません。
一年後、私たちはこの本をどんなふうに読んでいるのでしょうか。
今はまだ分かりません。だからこそ、楽しみです。
今まで読書会に参加したことなんてない、性的マイノリティについて考えてたことなんてない。そんな人にこそ、ぜひ参加してほしいです。
私も手探りです。何か結論めいたことが見えているわけではありません。
だからこそ、こんな不確かな世界で、一緒に本を読みませんか?
こんな方におすすめ
- 文学を通して、自分や社会についてじっくり考えてみたい方
- 一人で本を読んでいると、途中で挫折してしまう方
- 本について、じっくりと話し合える人と出会いたい方
- フェミニズムやクィア、マイノリティについて学び、考えてみたい方
- 自分とは違う価値観や、世界の見え方に触れてみたい方
本を全部読み終えていなくても、難しいことを話せなくても大丈夫です。
誰かの話を聞くだけでも、新しい発見があるかもしれません。
ぜひ、お気軽にご参加ください。
一年間、どうやって読むの?
実は、まだ具体的なことはあまり決まっていません(笑)。
月に一度集まるのか、どんなペースで読み進めるのか、一冊を何度も読み返すのか、それとも本の中で紹介されている関連書籍にも寄り道してみるのか。
今のところ、私自身もいろいろと考えているところです。
ただ、一つ決めているのは、一年間という時間をかけて、この本とじっくり付き合ってみたいということ。
せっかくの読書会なので、最初からすべてを決めてしまうのではなく、参加してくださる皆さんとも相談しながら、少しずつ形にしていけたらと思っています。
もちろん、毎回参加しなければならない、というような堅苦しいものにはしたくありません。
途中から参加する人がいてもいいし、しばらくお休みして、また戻ってくる人がいてもいい。
一年後、どんな読書会になっているのか、私自身もまだ分かりません。
でも、そんなふうに、行き先を決めすぎずに始めてみるのも、面白いのではないでしょうか。
開催概要
コギトの一年読書 #1 水上文さんの『たったひとり、私だけの部屋で』(河出書房新社)
日時|2026年10月24日(土)19:00〜21:00
場所|本と文化 コギト
対象|高校生以上
定員|10名程度
参加費|300円+1ドリンクオーダー
※「一年読書」は、基本的に当店で対象書籍をご購入いただいた方を対象としています。
店頭での購入のほか、取り置きやコギトのオンラインストアでの購入も可能です。
